はにかむブログ

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口腔内のマイクロバイオーム

こんにちは

はにー(@honey_come0011)です。

 

前回に引き続き今日もヒトと細菌のお話です。

「ヒトと細菌は一心同体」共生関係にあるという話は、皆さんご存じかと思います。

細菌自体の研究のみならず、現在ヒトと常在細菌との相互作用までをも包括した「マイクロバイオーム」という考え方が徐々に浸透しています。

www.honey-come.info

 

そして今回は、口腔内の常在細菌とヒトの健康について考えていこうと思います。

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       目次

  1. 口腔内のマイクロバイオーム
  2. お口は細菌のベッドルーム
  3. 虫歯菌や歯周病菌はよそ者?
  4. 近親者ほどマイクロバイオームも類似する
  5. 虫歯や歯周病の予防接種は必要か?
  6. 最後に

 

口腔内のマイクロバイオーム

口腔内には1000種以上の細菌が常在していることが分かっています。単純に細菌数だけなら約100億個ともいわれており、腸内の次に多いとされています。

一人のお口の中の細菌は、世界中の人口よりずっと多いのです!

その内の約半数は、優勢状態(ヒトの口ならありふれた存在)にあり、皮膚マイクロバイオームの3倍ともいわれています。

 

それらの中で、細菌学者によって分類・命名されているのはせいぜい24%ほどです。

口の中の細菌だけでも、まだまだ未知の世界が広がっていそうです。

 

お口は細菌のベッドルーム

なぜ口腔内はそこまで細菌が多いのか。

それは、口腔内が適度に温かく湿った環境であり、唾液や歯周ポケットからの滲出液には栄養分がたっぷり含まれているからです。細菌にとっては最適です。

では、1000種類以上もの口腔内細菌はいったいどこに暮らしているのでしょうか。

 

200人以上の健常成人を対象としたSegataらの研究では、

  • 口腔粘膜(頬粘膜、歯肉、硬口蓋)
  • 唾液と舌(唾液、舌、扁桃、咽頭後壁)
  • 歯面(歯肉縁下、歯肉縁上)

の主に3カ所で、バイオフィルム(膜状に築かれた細菌の共同体)が形成されているようです。

 

そんな口腔内のマイクロバイオームですが、ほとんどが特に悪さをするでもなく、バイオフィルムという名のテリトリーを築きながら暮らしています。

血圧や血管機能の改善を担っている細菌もいたりします。

 

また外部やってくる細菌を排除する役割も勿論そなえています。

では、なぜ虫歯や歯周病菌を追い払ってくれないのでしょうか?

 

虫歯菌や歯周病菌はよそ者?

虫歯菌や歯周病菌がいつ頃感染するかご存じですか?

虫歯菌は、乳歯(子供の歯)が生えそろう時期が最も感染・定着するリスクが高いです。口腔内の常在細菌叢も確立しておらず、臼歯などの磨きにくい歯も生えてくると、一層感染リスクが上がります。研究では、生後1歳半~2歳半ごろが最も虫歯菌に感染しやすいタイミングです。2歳半では、約75%が感染するそうです。

 

さらに歯周病菌は、10代後半から20代で大部分の人が感染します。実際、「歯周炎」として発症するのは中高年が多いのですが、細菌が定着するのはもっと若い時期なんですね。

 

もちろん感染しないに越したことはありません。

ただし、通常の人間関係を築きながら生活していくうえで、これら細菌を完全にシャットアウトするのは不可能に近いです。「子供にむやみに口移しでご飯を食べさせない」くらいなら、ほとんどのお母さんが守っているとは思いますが、そうでなくても同じお皿、食器を使うぐらいあるでしょう。顔を近づけるだけでも感染リスクは当然あります。

ましてや思春期にもなれば、チューの一つでもしたいでしょう?笑

女子会では、一つのお鍋でチーズフォンデュしたくなるでしょう?笑

 

要は、虫歯菌も歯周病菌も感染しないように生活するのは、不可能に近いのです。

よって、20代にもなれば常在細菌の一つとして共生関係を築くこととなります。

 

近親者ほどマイクロバイオームも類似する

したがって、近しい存在のヒト同士、細菌叢は似通ってきます。

それは、口腔内だけでなく、腸内や皮膚でもそうだと考えられます。

他人より友人、友人より恋人、恋人より家族のほうが細菌叢は近いでしょう。

 

「キスとカップル間での唾液マイクロバイオームの類似性について」という研究があります。カップル同士の舌表面の細菌叢は、他人のものよりも類似しているそうです。

さらに、キスの頻度が多いカップルほど、キスしてからの時間が短いほど、カップル間の唾液マイクロバイオームが類似することが研究で分かっています。

 

ちなみにこれら、Kortらの研究(2014年)によると、10秒間のチューだけで約8000万個もの細菌が移動すると報告されています。なんとなく分かってはいますが、数字にされると衝撃ですよね。

 

つまり強引なキスはバイオテロです!

注意しましょう。笑

 

虫歯や歯周病の予防接種は必要か?

これ、一度は思ったことありませんか?

私も子供の頃虫歯が多く、考えたことがありました。

当然医科・歯科の研究者も世界で最も多いと言われるこの感染症に対して、ワクチンがあればと研究されている方がいるのは事実です。

ただし、先ほども説明した通り、虫歯菌や歯周病菌はどちらも常在細菌です。

ヒトと共生関係をおくる口腔マイクロバイオームの一種です。

適切なブラッシングや予防処置により、本来問題なく共生できる関係なのです。

それに対し、ワクチンで予防するというのは非効率(費用対効果が悪い)と考えられます。さらに、虫歯菌や歯周病菌も決して1種類だけが原因菌ではありません。特に歯周病菌は種類が多種多様です。その種類の数だけ、ワクチンを接種させるのは無理があります。

本来、予防接種とは、結核菌やジフテリア菌、肺炎球菌などヒトに常在していない細菌に対しては有効です。しかし、共生関係が当たり前となる細菌をターゲットにしたワクチンや特効薬ができたとしても、それを上回る量の虫歯菌などが口腔内に入ってきては意味がありません。

 

その結果、コストや効率の面を考慮し、いまだに虫歯や歯周病のワクチンは実現していませんし、開発されたとしても世界的にそのワクチンが展開されるには課題も多いのです。

 

最後に

最近の研究では、「健康な人」と「疾患を持つ人」では口腔内のマイクロバイオームに違いがあることが分かってきました。将来的には、口腔マイクロバイオーム検査(唾液をちょっと採取するだけ)でも全身疾患の早期発見が可能になる日が来るかもしれませんね。

 

口腔マイクロバイオームへの期待と可能性は無限大です!

 

口は体内への入り口です。「細菌が多くて汚い!」と思いがちですが、全身状態の写し鏡でもあります。口の中で細菌たちが平和に暮らしていることは、私たちヒトが健康であることの証です。そう考えると、口腔内細菌も可愛く感じてきませんか?

 

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