はにかむブログ

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歯科の細菌検査って意味あるの?

こんにちは

はにー(@honey_come0011)です。

 

「ヒトと細菌の相互作用」=「マイクロバイオーム」についてお話ししました。

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細菌と聞くとどうしても人間に悪さする「病原性」をもった微生物ばかりをイメージしがちですが、実は世の中の99%の細菌は普段ヒトに影響しません。そして中には、私たちの消化・吸収を手助けしたり、私たちが合成できないビタミンを作ってくれたりと有益な細菌もいるのです。

 

ただし中には、人間に悪影響を及ぼす細菌もいるのも事実です。

歯科の世界では、虫歯菌と歯周病菌が特にターゲットとなります。

そんな細菌を検査で見つけること、または除去することを目的にした治療法も数多く研究されています。

どれほどの意味と効果があるのでしょうか?

今日は細菌検査について考えていきます。

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         目次

  1. 細菌検査とは?

  2. プラークや唾液を採取して顕微鏡で覗く細菌検査
  3. 虫歯治療中の細菌検査

  4. 根管治療中の細菌検査

  5. 歯周病治療中の細菌検査

  6. 常在細菌との共生バランスを見極めることが重要

  7. 最後に

 

細菌検査とは?

医科・歯科ともに細菌検査というものを行います。

組織や代謝物・排泄物を一部採取し、数日~1週間培養して細菌を同定する方法です。

血液を採取し、血中抗体をチェックする場合もあります。

またPCR検査を行い、特定の細菌が存在するか遺伝子検査する方法も主流です。

 

歯医者さんでも細菌検査を行う医院があります。

ただし、ほとんどの歯科医院では、行っていません。

一般的に「削って詰めて」を繰り返す通常の歯科医院にとって、細菌検査自体にあまり効果が見いだせないからです。ほとんどの細菌検査は、結果が分かるまで数日~1週間かかります。その検査結果を待つ時間があれば、次の治療に進めていきたいと考えるのが普通の歯医者さんです。

収益としてもその方が上がります。

 

また虫歯の細菌、歯周病の細菌も決して1種類ではありません。

どちらも分かっているだけで数十種類以上存在します。

それらを全て特定することは、一般の開業医では不可能に近いです。

 

特に毒性の強い細菌のみを特定できたとして、それだけを叩く特効薬があるわけでもありません。抗生剤を飲めば、一時的に減少するかもしれませんが、他の善玉菌(本来身体を防御してくれるはずの細菌)まで減少してしまいます。

 

細菌検査しても、その結果に応じて一般開業医でできる対策には限度があるのです。

しいて言えば、

「患者さんにリスクの高さを伝えることができる」

「それに応じて、定期的なメンテナンスを頻繁に来てもらうようにする」

くらいでしょうか。

 

定期的なメンテナンスを行っていない歯科医院もまだ多く存在します。

そうなってくるといよいよ細菌検査をする意義が見えなくなってきます。

そうした背景があるため歯科治療での細菌検査がなかなか流行らないのです。

 

プラークや唾液を採取して顕微鏡で覗く細菌検査

最近開業される先生は、この「位相差顕微鏡」を導入している方も多いです。

患者さんのプラーク(歯垢)や唾液を採取して、顕微鏡で覗くだけです。

当然その中には、多くの細菌がウジャウジャ動いています。

それを患者さんに直接見せることで、「こんなに多くの細菌がいますよ~」と説明し、今後の歯科健診につなげるのが狙いです。

さらに、数か月歯の掃除や治療を繰り返したところで、再度顕微鏡像を見せ、「前回より細菌が少ないですね、菌の活動量も落ちてるように感じます~」と説明すれば、効果を実感させることができます。

 

プラークの実態を説明し、プラークコントロールのモチベーションをアップさせるには、効果的です。自分のプラークの顕微鏡像なんて誰も見たことないため、インパクトがあります。そのインパクトを今後の歯科治療やブラッシングにつなげるという意味では意義があります。

 

ただし、これは細菌検査ではありません。

そもそも虫歯菌なのか?歯周病菌なのか?全く特定できる代物ではないからです。

当然、どんな人でも口腔内には100億以上の細菌が常在していることは前回お話しした通りです。虫歯だらけの人も、虫歯0の人も、誰のプラークだって採取してきたら顕微鏡内ではウジャウジャ動いているのです。

さらに治療後のプラークを見せるときは、細菌量が少なめの部分を見せてしまえば、あたかも改善しているようにみえます。顕微鏡画像なんて動かしてしまえば、いろんな像が見えてくるのですから。

 

以上より、位相差顕微鏡でプラークや唾液内の細菌を患者さんに見せる、という行為は、まだまだ議論の余地があり、特に細菌学に精通している歯科医師ほど反対意見が多いように感じます。

少なくともこれは細菌を特定する作業ではないため、「細菌検査」ではないと考えています。

しいて言えば、「患者さんのモチベーションアップ作業としては、有効なのかな?」と思います。

 

虫歯治療中の細菌検査

歯の象牙質までの虫歯の穴(う窩)が存在したら、基本的には虫歯部分を削って詰めます(修復処置)。もちろんう窩の中には、う蝕関連細菌が多数存在するでしょうが、それをわざわざ細菌検査にかける歯科医師はどこにも存在しません。

しいて挙げるなら、大学などの研究機関くらいでしょうか?

厳密には、細菌が完全にいなくなったことを確認してからの修復処置が、理想的ですが時間やコストの問題もあります。

 

現在、ほぼすべての歯科医師は、虫歯部分の「色調変化」と「硬さの変化」を頼りにどこまで削ればよいか手探りで治療しているのが現状です。「う蝕検知液」を使用している先生もいますが、これも決して完璧とは言えません。

ただでさえ、細かい作業がつづく歯科医療。

ましてや細菌なんてちょっとやそっとの拡大では目に見えません。

実は虫歯治療は、ほぼ経験と勘の世界なのです。

 

根管治療中の細菌検査

虫歯がさらに大きくなると歯の神経まで細菌が到達します。

多くの人はここで、痛みを伴い歯科医院に駆け込んできます。

この時、「歯の神経の治療をしましょう」などと説明されることが多いでしょう。

これを根管治療と呼びます。

長く伸びる歯根の中を消毒、洗浄するにはさらに高度な技術が必要になります。

この根管治療中に細菌検査をされる先生が時々います。

 

  • 根管内の細菌がまだ多く存在するなら消毒を継続。
  • 根管内の細菌が一定以下に減少したら最終的な材料で密閉する。

 

この判断ができます。

こちらもほとんどの歯科医院では行っていませんが、「細菌簡易培養検査」、通称「S培」という形で保険診療では認められています。

なかなか流行らない理由は、

  • 検査するたびに細菌を培養するため数日~1週間またないといけない。
  • さらに1本の歯につき1度しか算定できないこと。
  • 根管治療に関わりのある嫌気性菌(酸素が苦手な細菌)があまり検出できないこと

などもあり、反対派の意見が根強いです。

 

50年も前の話ですが、アメリカの研究論文でも「根管治療中の細菌検査は無意味である」と報告されるなどしてさらに歯科界の議論は加熱、現在ではほとんどの歯科医師が行っていない状態です。

 

歯周病治療中の細菌検査

歯周病治療に対する検査、これについては歯周病専門とうたっている医院では、徐々に広がりつつあります。

ただし菌を採取して自分で培養する先生はほとんどいません。

患者さんの口からプラークを採取し、検査会社に外注します。1週間以内で検査結果がでます。

歯周病菌も種類が非常に多く、すべてを把握することは困難です。

しかし「レッドコンプレックス」と呼ばれる危険性の高い3種類だけを検出する検査セットなどが製品化されています。それにより患者の歯周病リスクを判定することができます。だいたい1回5000~10000円ほどするため、基本的に自費診療です。これがまず歯周病細菌検査の普及に対するネックです。

 

では、「その細菌検査が陽性である」あるいは「特定の歯周病菌が多く検出された」と分かったところで何が歯科医師にできるのでしょうか?ここがやはり問題です。危険性の高い菌種を特定できても、それに対する明確な対策がなければ、意味がありません。

 

先生の中には、その細菌にも効果があると抗生剤を処方する方もいます。

私はこれには反対です!

そもそも歯周病菌も「口腔内の常在細菌叢」の1種です。

他の多くの菌と同様、「口腔マイクロバイオーム」を構成しています。

抗生剤を服用すれば一時的に歯周病菌が減るでしょうが、服用後1ヶ月もしたら元に戻るのは必至です。0にすることはできません。

さらに、もっと問題なのはせっかく口腔内で構成されていた他の常在細菌叢が崩壊してしまします。それらは、我々の身体を他の微生物から防衛していた可能性もあるのです。

当然、腸内マイクロバイオームも乱れます。

長期間続けば、抗生剤の効きにくい耐性菌が発生する可能性もあります。

 

抗生剤は、急性症状がない限り服用しないに越したことはないのです。

今、日本で処方されている抗生剤の半分は不必要である」と主張する先生がいます。

私は歯科医師になってまだ数年ですが様々な医師や医療現場をみてきて、それが理解できるようになってきました。

不用意な処方は避けるようにしています。

 

患者さんにもこれだけは知ってもらいたいです。

すぐにお薬を出してくれる医師が、必ずしも良い医師ではない!」ということです。

 

常在細菌との共生バランスを見極めることが重要

以上より、特定の細菌を見つけ出してその後、何ができるのかというところが問題なのです。現在の医療技術や抗生剤では、見つけ出した特定の1種類だけを叩くことはできないのです。抗生剤を服用しても細菌との共生バランスが崩壊する(ディスバイオシス)だけです。下手をすると、そこから虫歯菌や歯周病菌が優勢に立つ可能性もあります。

 

何度も言うように虫歯菌や歯周病菌は、誰もが口腔内に持つ常在菌です。

ヒトは、いかに常在細菌とうまく共存バランスを維持(シンバイオシス)するかを考えていかなければいけません。虫歯菌や歯周病菌が優位にならないよう、他の多くの細菌と共にシンバイオシスをキープすることが課題となります。

これが達成できれば、虫歯や歯周病は生じないはずです。

そのためにも我々歯科医師は、無意味な細菌検査や抗生剤処方を控え、

  • 共生バランス崩壊(ディスバイオシス)の早期発見と早期治療介入
  • 共生バランス維持(シンバイオシス)のためのブラッシング指導やメンテナンス

を意識することが重要です。

つまり今後の歯科医師の「口腔内細菌との向き合い方」なのかなと思います。

 

 最後に

すこし難しい話でしたがいかがでしたか?

細菌検査が決して無駄という訳ではありません。

「細菌という眼に見えない敵との戦いがどれだけ困難か」の裏返しとも言えます。

そして現在行われている大部分の細菌検査は、治療の根本的解決(原因療法)には繋がっていないのが現状です。さらなる医療技術や医師自身の情報収集が期待されます。

 

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