こんにちは
はにー(@honey_come0011)です。
今回は、“咬合力”=“噛む力”の話です。
一般的な歯科医の主な、治療対象は「う蝕(虫歯)」と「歯周病」です。
もちろん、顎関節症、口内炎、舌痛症、歯列不正、口腔癌などその他の疾患も診査診断しますが、専門の先生に依頼することが多いです。
しかし、どんな歯科医も絶対直面する最大の敵、それが“咬合力”です。
なぜ“咬合力”が最大の敵なのか?
我々歯科医師が治療の際、何を考えているのか?何に気をつかっているのか?今日はそんな歯科医の憂鬱をお話しします。
目次
・虫歯と咬合力
・歯周病と咬合力
・「咬合性外傷」とは?
・一番怖いのは「歯ぎしり」
・咬合力の強い人の特徴
・力のリスクから歯を守るために何ができる?
虫歯と咬合力
当然、毎日食事しないと我々人間は生きていけません。
毎日何百回と繰り返される咀嚼は、少しずつですがエナメル質に亀裂を生じさせます。目に見えないような亀裂を“マイクロクラック”と呼んだりします。この亀裂から、虫歯菌が入り込み、外から見えない虫歯が、歯の内部で広がっていることも多いのです。
大人の虫歯が歯と歯の間(隣接面)に比較的多いのも、隣り合う歯と歯の間に日々が入りやすいからともいわれています。ちなみに子供の虫歯が歯の噛み合わせの面(咬合面)に多いのは、ブラッシングの習慣が定着していない証拠、とも言われます。
そんな僅かな亀裂の中まで歯ブラシで清掃できるわけがありません。少しずつ気づかない間に虫歯になっていることが多いのです。
歯周病と咬合力
歯周病は「歯槽膿漏(シソウノウロウ)」とも呼ばれ、歯周病菌によって歯肉や歯を支える歯槽骨が吸収されていく感染症です。世界で最も多くの人が感染している疾患として、ギネス記録に掲載されています。
咬合力が過剰な人ほど、毎日強い力が歯に加わります。その力が歯周病の進行を加速させるというのは歯科界では常識です。硬いものを噛むのが好き、仕事や運動時に食いしばる傾向がある人は、要注意です。
しかし特に強い咬合力が発揮されるのが、就寝中です。
起きているときの約7倍ほどの力で歯ぎしり・食いしばりを行っていると言われており、ギシギシ歯ぎしりしている人、起床時に顎関節の痛みや肩こりがよく出る人は要注意です。
ブラキシズムとは?
こういった、歯に加わる過剰な力を“ブラキシズム”と呼びます。
ブラキシズムは、大きく「グラインディング」「クレンチング」「タッピング」の3つの動作形態として分類されます。
「グラインディング」・・・上下の歯を横にギシギシとすり合わせる動作(臼磨運動)。一般的な音のなる歯ぎしりは、このグラインディング運動を指し、歯質の崩壊を生じやすいのが特徴です。
「クレンチング」・・・上下の歯を静かに、しかし強く噛み合わせる動作。起床時に無意識にしていることも多く、また他人に気づいてもらうこともできないため、発見が遅れがちです。
「タッピング」・・・上下の歯を動的にカチカチ噛み合わせる動作を指します。
夜間のブラキシズムの頻度は10~20%ほどともいわれていますが、その日の体調、ストレス、眠りの深さによってもまちまちで、はっきりとした統計データはいまだありません。
私、個人の意見ですが、「ヒトも昔は動物だった」わけです。潜在意識では、動物の本能もあるわけですし、就寝中にそのころの本能で強い咬合力を発揮していても全然違和感はないと思います。なので、ブラキシズムが全くない人なんていないと思います。
ちなみに、力の影響で歯に悪影響を及ぼしているタイプの患者さんを、一部の歯科医師たちは「ブラキサー」と呼んでいます。つまり、咬合力が普通の人より強いから要注意!と歯科医師は考えるわけです。
「咬合性外傷」とは?
「噛んだら歯が痛い」と訴えてこられた患者さん。レントゲンやその他の検査をしても虫歯や歯周病は特に問題がない。こんな患者さんもたくさんいます。多くの場合は、過剰な力によって一時的に歯の根元が炎症を起こしていることが多いです。これを「咬合性外傷」と呼びます。わかりやすくいうと、歯の捻挫って感じでしょうか。
なのでしばらく安静にしておけば、治ることも多いです。
もちろん、歯ぎしりなどの力のリスクを放置しておくと、何度も繰り返したり、他の部位が傷んできたりと、繰り返すことも多いのです。
全ての歯が均等に噛みあっていれば、こういった咬合性外傷は、起こりにくいのですがなかには歯並びの悪い人(歯列不正)、仕事や運動時に無意識に噛み癖がある人などはよく起こります。
歯医者さんによっては、痛みのある歯を少し削って噛んだときに当たらないようにする処置(咬合調整)をされる先生も多いです。しかし、虫歯でもない綺麗な歯をそのために削るのはやはりもったいないです。私なら、食事以外の普段の生活でなるべく「歯と歯をくっつけないよう」なるべく気をつけさせて、経過観察をすることも多く、大抵それで寛解することが多い印象です。
一番怖いのは「歯ぎしり」
日中の注意だけで治るのであればまだいいのですが、やはり夜間のブラキシズム、とくに歯ぎしりの場合、通常の7倍ほどの咬合力が発揮されてしまいます。起きているときは、「これ以上噛んだら、痛い・歯が割れそう」というブレーキがかかるのですが、就寝時はそのブレーキも働きません。よって、眠っている間は過剰な咬合力が加わりやすいのです。
もし、一緒に眠っている家族が横にいるのであれば、歯ぎしりしているか聞いてみましょう。歯ぎしりが酷いと言われたら早めに歯医者に診てもらいましょう。
咬合力の強い人の特徴
咬合力(=噛む力)が強い人の特徴はたくさんあります。とくに自分自身でも分かりやすいのが、歯の咬耗と骨隆起です。
⇧歯の頭の部分が大きく削れているのが分かるでしょうか?スパッと切れたように削れています。これが「咬耗(コウモウ)」と呼ばれる状態で、歯ぎしりしている証拠です。ときには外傷として痛みが出たりもします。
⇧こちらは、下顎の内側です。何かボコボコと膨らんでるのが分かりますか?腫瘍なんかではありません。これは「骨隆起」です。何年もかけて少しずつ骨が増殖してきたもので、必ず除去しなければいけないものではありません。咬合力が強い人に多く見られがちです。ときにこの骨隆起のせいで入れ歯が装着できない患者もいたりしますので、そういう場合は、外科的に骨切除します。
⇧こちらも上あごの奥歯部分に骨隆起ができています。指で触ってみると結構の方がボコボコしていると思います。きっと奥歯で歯ぎしりしているのでしょう。よく見るとほとんどの歯に咬耗も認められます。典型的なブラキサーです。
他にも特徴はたくさんあります。そして私たち歯科医師は、顔の形(顔貌)をパッと見ただけで、噛む力が強いタイプかどうかがすぐに分かります。なので、そういった患者さんには、過剰な力がいかに虫歯や歯周病に悪影響を与えるか説明することも多いです。
力のリスクから歯を守るために何ができる?
最後に、力のリスクが強く頻繁に痛みを訴える患者さんには、以下のことを注意します。
日中はまず「噛まない!」を意識させる。食事の際は仕方ありませんが、それ以外は、上下の歯をくっつけないように意識改革させます。これを「行動変容療法」とよびます。よりリスクの高い人には、スマホの待ち受け画面に「噛まない!」と表示させたり、テレビやパソコン画面の横に「噛まない!」と書いた付箋を貼らせます。
ふざけているように感じるでしょうが最も簡単で、患者自身ができ、効果のある治療法です。
しかし寝ている間は、無意識で顎を動かしてしまします。特に眠りの浅い状態(レム睡眠)の時は、夢を見ていたり、眼球もぐるぐる動いています。同時に顎の運動も無意識化で起こしやすいです。あまりに夜間の歯ぎしりが強い患者さんには、ナイトガード(マウスピース/治療用スプリント)を作って、装着してもらいます。それによって、歯ぎしりを防止したり、特定の歯に過剰な負担が行くことを防止できるのです。
多くの歯科医院で作製しています。保険も適応できるため、歯ぎしりをよく指摘される方は、一度かかりつけの歯科医院に相談してみてもいいと思います。
歯科医師は、ただ虫歯と歯周病の治療だけをしているわけではありません。それを加速させる咬合力に最大限配慮しながら毎日診療しています1日3食、食事をする口腔内。多量の唾液や細菌にさらされ、そのうえ過剰な力が加わる歯。こんな劣悪な環境を守るのは実は一苦労なのです。
最後に
余談ですが、以前年齢の割に歯がぼろぼろに削れている男性患者さん(38歳)が来院されました。がっしりした体格で一見健康そうです。順番に虫歯の治療をしていました。ふと趣味の話になり、その患者さんはほぼ毎日ジムでウェイトリフティングをしていると聞かされました。「健康的ですね~私も見習わないと~笑」などと話しながら、心の中では「やめてくれぇぇぇぇ!!!!泣」と叫んでいました。間違いなくジムの最中、食いしばっているでしょうからね~。これは結構、歯医者さんあるあるだと思います。笑
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