虫歯が大きく広がってしまった奥歯の治療中....
何度も歯医者に通ってようやくかぶせ物を作る直前に、こんなことを言われた覚えはありませんか?
「白い被せ物なら1本 7万円になります。もし保険でつくるなら金属になりますがどうしましょ?」って。
経済的に余裕のない若い人なら、やむなく金属にしてしまう方も少なくありません。
もちろん保険適応で使用される金属(金パラ)が必ず悪いとは言いません。
ほとんどの方が、問題なくそれで生活できています。
しかし時には、金属アレルギーを発症される方もいます。
繊細な料理人なら、「味覚が変わって仕事にならない」と訴えられる患者さんもいます。
なにより、大きく笑った時に金属色が見えるのはカッコよくないでしょう。
若い女性ならなおさら気をつけないと、後悔される方も多いです。
何より現在、歯科治療はメタルフリーに向かっています。
保険を適応した場合、どの歯にも好きに被せ物を作れるわけではありません。
保険にはルールが細かく決まっています。
どの歯にはどの種類の被せ物が適応できるか、あらかじめ決まっています。
歯科の裏事情も含めて、お話していきましょう。
注意!
補綴(ホテツ)とは、歯を削ったり、抜いた後に人工物を入れる処置のことを言います。詰め物、被せ物、入れ歯もすべて補綴処置と言えます。歯科で、特によく用いられる言葉ですので覚えておきましょう。
保険適応の被せ物の種類
上記イラストの左側が保険でできる補綴の種類です。
「硬質レジン前装冠」
表面は白く、中身は金属でできている被せ物です。決して審美的に綺麗な白にはできませんので、透明感のないのっぺりとした白色に見えます。
「レジンジャケット冠」
白い樹脂でできた被せ物です。金属は使われていません。ただし割れやすいため、あまり作っている医院は少ないのが現状です。
「メタルクラウン」
完全に金属でできた被せ物です。その分丈夫です。
「CAD/CAM冠」
コンピュータと切削機による削り出しで作製される被せ物です。
Computer-Aided Design/Computer Aided Manufacturingの略で、コンピュータを用いて設計や製造を行うという意味です。
高強度の白い樹脂でできているため金属は使われていません。5年ほどまえから保険適応され、どんどん普及しています。ミリングマシン(自動で削り出す機械)の発展のおかげもあって、保険適応となりました。すごい時代です。
保険適応できる歯はどこ?
歯の種類の名前と場所はすこし難しいため、上記の画像を参考にしながら読んでください。
「硬質レジン前装冠」
適応は、1番前の歯から3番目(犬歯)までです。
いわゆる前歯部と呼ばれる部位が対象です。
決して審美的に綺麗な白にはできませんので、透明感のないのっぺりとした白色に見えます。そこまで見た目にこだわらない方であれば、これで十分です。
「レジンジャケット冠」
適応は、1番前から数えて5番目(第二小臼歯)までが保険適応です。
単調な白ではありますが、小臼歯(4,5番目まで)ならそこまで気になりません。
ただしやはり僕は、お勧めはしていません。作っている医院も少ないです。
「メタルクラウン」
前から4番目(小臼歯)以降は、「メタルクラウン」という完全な金属色の被せ物しかできませんでした。数年前までは。
「メタルクラウン」は審美的にはよくありませんが、金属というだけあって、やはり丈夫です。割れることはまずありません。上の大臼歯であればめったに他人には見えないため、僕はこの被せ物を勧めています。
「CAD/CAM冠」
2014年から保険適応として認められた白い被せ物です。
前から4, 5番目(小臼歯)と下の6番目(第一大臼歯)が適応になります。
これで一気に、見た目と費用で悩む患者さんが減ったのは事実です。
【だだし、下の6番目については、上下7番目(第二大臼歯)の歯がそろっており咬合に問題がないと判断された時のみ保険適応可能です。】
【また金属アレルギーと診断された患者さんは、さらに奥の大臼歯まで適応できます。】
今後、このCAD/CAM冠が、前歯部にも適応切るようになるのは時間の問題と言われています。期待する一方で、この歯のおかげで、保険外診療の歯を選ぶ人が減って、医院の売り上げが落ちたと嘆く医院も時々いたりします。経営って難しいですよね。
時代はメタルフリー
メタルフリーとは、つまり金属をなるべく使わないようにしようということです。今の歯科界は、この流れに大きく舵取りしています。
特に「金パラ」と呼ばれる金属です。正式には、「金銀パラジウム合金」です。
これが、人によってはアレルギーが出ると最近話題になってきています。
ときに金属イオンが染み出して、歯茎を黒っぽく着色(メタルタトゥー)させたりします。
さらにもう一つの問題が、パラジウムの高騰です。
IT業界でも、重宝されるレアメタルです。スマホを皆が持ち歩く今、パラジウムは取り合い状態になっています。したがって、保険で金属の詰め物(インレー)や被せ物(メタルクラウン)を入れようものなら、時には赤字なのです。
これは、歯科医院経営にとっても、大ダメージです。
したがって、医院側も少しでも金パラの使用量を減らそうと、躍起になっています。
被せ物製作に差し支えない範囲で、歯を削る量を減らしたり、
(↑ 削った分がそのまま金属量になるため金属使用量が減るのです!)
金パラのパラジウムの割合を減らしてみたり、
(↑ これはルール違反です!)
最悪、ニッケルなど他の金属で代替してみたり、
(↑ 絶対バレたらアウトです!アレルギー的にもニッケルは最悪です。)
などと、どうしてもルールを逸脱しがちです。
どんな業界もこういうぎりぎりのルール違反はあると思いますが、
堂々と診療していくためにも、保険適応をメタルフリー化の方向へさらに推し進めてほしいものです。
最後に
CAD/CAM冠推し、のような内容になりましたが、まだ医院に取り入れてないところもあります。金属が必ず悪いわけではありません。
かかりつけ歯科医院の先生としっかり相談(金額、期間、補償もふくめて)して、納得のいく補綴治療を受けてください。
また保険外の白い被せ物を、強引に勧めてくる医院も稀ですがあります。
そういう時は、さっさと違う医院に相談に行きましょう!
歯医者は、もう自由に選べる時代ですからね!